先週から始めた【週末エンタメ】。
スタジオスタッフが、週末にゆっくり味わうのにおすすめな映画や音楽、小説などを紹介するコーナーです。各地から桜の便りが聞こえてきますが、お花見に負けずにいきまーす!
2回目の今週は、3度のメシより活字が好き(嘘です。メシも好き)なワタクシ、おにぎり&WEB担当のハルミがとっておきの1冊をご紹介します。
小説『夜明けまで1マイル』 村山由佳 集英社文庫
「年齢を3で割ると人生時間がわかる」らしいです。
例えば15歳だったら 15÷3=5 で朝方の5時。これから一日が始まる。
36歳だったら 36÷3=12 でちょうど正午。まだ折り返し地点。
60歳だったら 60÷3=20 で夜8時。夜更けまであと少し。
この小説は、できれば夜明け前か、せめてまだ「朝」と言える時間を生きている人に読んでもらえたらいいなぁと思います。
まだ今日(人生)がどんな一日になるのかわからなくて、わくわくしたり不安になったり。すごい一日にできそうな気もするし、もしかしたら平凡な一日で終わっちゃうかもと自信をなくしかけたり。この小説の主人公たちも、そんな「夜明け前」の時間を苦しみ悩みながらもすすんでいきます。
「ドラムスのセイジが顔の前でスティックを交差させた。……全員同時に頭から入った。リードギターの直樹、キーボード&ヴォーカルのうさぎ、そしてベースの僕。完璧なハーモニーとリズムキープに、僕は自分でベースを弾きながら鳥肌を立てる」
主人公はベースの「僕」。バンドとバイトと授業に明け暮れる大学3年生。友人と幼馴染と組んでいるバンドは、このところようやくブレイクのきざしを見せはじめたところ。
「俺のところからデビューしろ」待ちに待ったメジャーデビューの話がくるも、それは生まれながらの才能をもつヴォーカルだけ。「僕」のベースは「手堅いだけでつまらん。いくらでも替えがきく」と酷評されてしまう。他のメンバーの思いもさまざま。バンドは一体どうなるのか──
バンドも恋も、うまくいきそうで自信満々なときもあれば、現実をつきつけられて凹むこともたっぷりあります。薄暗闇の中で、進むべき道を見失ってしまいそうなときも。
そしてこの小説には、そんな夜明け前の人たちに明かりをそっと灯してくれたり、ほんの少し勇気をくれたりする「大人たち」もちゃんと用意されています。
大学の憧れの先生マリコさん。お人好しで好感のもてるバイト先の土屋さん。口は悪いけど音楽を聴く耳だけは確かなオザキさん。そしてライブハウスのオーナーで、スタジオベーシストとして名を馳せた、頭の上がらない「兄」。
なかでもこの年の離れたお兄さんの、こんな台詞が印象的でした。
「お前、音楽ってものがどこに存在するのか考えてみたことがあるか?……音楽が生む感動ってやつは、おそらく聴かせる側と聴く側とのどこか真ん中へんにポッと生じるもんなんだ。奇跡みたいにな」
だからいろんなことから逃げるなと。悩んでもいいが、自分に居留守を使うなと。
この言葉、「僕」にはぶっすり心臓に突き刺さったようですが、あなたはどうですか?
──余談ですが、今回この記事を書くために再読していて、前回紹介した映画『アマデウス』のことが出てくる台詞があって驚きました。主人公が音楽の才能とか素質について悩む場面。どこに出てくるかはどうぞ探してみてください。